2000年3月に読んだ本



仮面法廷 和久峻三 1972.08.21 第1刷 講談社

和久峻三の乱歩賞受賞作。赤かぶ検事シリーズでおなじみの法廷シーンも登場する。まだ、法廷シーンは脇役といった感じで、謎解き推理がメインになっているが、サイドストーリー的なものにもそれぞれ結末が用意してあって、親切な作りになっている。
ちょっと違和感を感じるのは、京阪神地方が舞台になっているにもかかわらず、主人公や刑事が、会話の文章の中でも標準語で話している点。一瞬、舞台が東京かなと錯覚してしまう。赤かぶ検事シリーズで、赤かぶ検事こと柊検事が名古屋弁でしゃべっているのとは好対照?もっとも、時代的な背景もあるかもしれないが(まだ、テレビなどでも、大阪弁が全国的に広まっていないせい?)。

(2000.03.01)


孤独なアスファルト 藤村正太 1999.03.15 第1刷 講談社文庫 ISBN 4-06-264525-4

またまた乱歩賞受賞作。第9回(1963年)の受賞作だから、私の生まれる前の作品ということになる。当初主人公と思われた登場人物が、途中から脇役に回って、刑事が主人公になって行く。社会派の作品ということになるのだろうが、今ひとつのめり込むことができなかった。気温のトリックはたしかに面白いとは思うが。
ところで、今、東北訛りをここまで馬鹿にした会話を登場させたら、さすがにクレームが出そうだが、当時はそうでもなかったのでしょうか。
外出先で(移動中に)、この本を読んでいたのだが、帰りにどこかで忘れてきてしまった。くやしーーーい。読み終わる前だったら今夜は眠れないところだ。

その後見つかった。よかったよかった。

(2000.03.02)


屍鬼 上・下 小野不由美

久しぶりに、人から借りて読んだ。前から読みたいなと思ってはいたのだが、他に欲しい本がたくさんあってなかなか手が出ずにいた。公称3000枚の超大作、出だしは少し読みにくいもののページを追うごとに、だんだん加速してあっという間に読めてしまう。小野不由美恐るべし。
ストーリー的には、土葬の週間の残る村で、死者が起き上がりと呼ばれる吸血鬼となり、人が次々と襲われるといったストーリー。単純なホラーではなく、そこに様々なテーマが描かれてる。登場人物が多い割には、それぞれが混同するようなこともないのは作者の力量なんだろう。
途中、屍鬼との対決の辺りは人の感情が乱れてくるところだが、少しだれてしまうような気もする。また、ラストがなんとなく途中で見えてきてしまうのも、読直後の感じとしては良くないかもしれない。大作だけに、ラストはかなり期待してしまうので。

ちなみに、上巻は2月中に読み終わっていた。6日ほどで全部読み終わったわけではない。

(2000.03.08)


蟻の木の下で 西東登 1999.03.15 第1刷 講談社文庫 ISBN 4-06-264525-4

「屍鬼」なんて大作を読んだ後だけに、なかなか次の作品に移れなかったが、上の「孤独なアスファルト」と同じ文庫本に納められている作品、「蟻の木の下で」に挑戦した。
文中に出てくる蟻の木なんてものが本当にあるのかどうかは別にして、蟻の木の描かれているシーンはホラーといってもよいだろう。恐い。ただ全体に、多視点で描かれているのは面白いものの、テーマがたくさんありすぎる感じがしないでもない。戦争の影、新興宗教などなど、ちょっと中途半端な気もする。
話しは変わるが、わたしの子供の頃(といっても本当に小さい頃だが)には、まだ傷痍軍人(あるいは傷痍軍人を装った人)が、街角に立っていたような記憶もある。当時でも戦後20年以上たっていたわけで、もはや珍しかったのだろうと思うが、わたしなどより若い人はピンとこないかもしれない。良くも悪くも時代背景には囚われてしまうもの。感情移入も時代と共に難しくなってくるのだろう。

(2000.03.16)


アルキメデスは手を汚さない 小峰元 1973.08.28 第1刷 講談社

タイトルが奇抜な小説というのは、目をひくものの、なんとなく手に取るまでが時間がかかるような気がする。この「アルキメデスは手を汚さない」は、わたしにとってその例だった。随分前に買ったものの、読んでなかった1冊。
出版された当時、かなり読まれた作品らしく、単行本出版からわずか1年で文庫化されている。実際の高校生はこんな話し方はしないだろうと思うのは、時代が違うからなんだろうか。ただ、登場人物がたまたま高校生にはなっているが、高校生である必然性はないだろう。それほど違和感なく、読み進むことができた。この辺が、先に読んだ「放課後」とは違うところ。
タイトルの意味も最後のほうに来てわかる仕組みになっており、なるほどと思うが、トリックや謎の点で少し弱いだろう。(こんなことは解説にも書いてあるが)

(2000.03.22)


あした天気にしておくれ 岡嶋二人 1986.08.15 第1刷 講談社文庫 ISBN 4-06-183809-1

乱歩賞受賞前年に、最終選考まで残った作品。乱歩賞受賞作をデビュー作とすると、プレ・デビュー作ということになるのかな。
正直に言うと、わたしは受賞作の「焦茶色のパステル」よりも、こちらのほうが面白かった。乱歩賞落選の理由が、トリックに「先例がある」というのと、「実行不可能」という理由からだったらしい。どちらも個人的に確かめたわけではないが、そんなこととは関係なく面白かった。岡嶋二人の作品は、先の2作品と「クラインの壺」しか読んでいないが、なぜもっと早くから読まなかったかと思ってしまう。こう思ったのは、大沢在昌以来かな。
岡嶋二人は、二人の共作という形を取っている。残念ながらコンビは解消されたが、井上夢人が単独で執筆を続けている。そこまでたどり着くにはまだまだ時間がかかりそうだが。読まねば。

(2000.03.25)


千里眼 ミドリの猿 松岡圭祐 2000.03.20 初版第1刷 小学館 ISBN 4-09-386049-1

千里眼三部作?の第2作目。正直言って、第3作目?までの繋ぎの作品と言えるだろうか。前作。千里眼にはそれなりの結末が用意されていたのに対して、この作品は自作に続くということで終わってしまう。タイトルのお「ミドリの猿」の意味も明かされないまま終わる。不親切というのは言い過ぎではないと思う。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」を思い出してしまう。(まだ、こちらの方が親切かもしれない)
といって、面白くないというわけではなく、一気に読めてしまう。とても面白い。次作が待ち遠しくてならない。それだけに余計に腹が立つ。そんな感じだ。
今すぐ読むか次作を待って読むかは、意見の分かれるところだが、個人的には、次作を待って一気に読みたかったというのが本音だ。
作品中に「リング」「貞子」というのが出てくる。鈴木光司の作品は、すでに古典となったのか?

(2000.03.27)


プラハからの道化たち 高柳芳夫 1979.09.07 第1刷 講談社 ISBN 4-06-130640-5

またぞろ、乱歩賞もの。第25回受賞作。共産主義時代の東欧、チェコ(チェコスロバキアというべきか?)が舞台。逃走幇助業者(フルフトヘルファー)と呼ばれる人々の暗躍?する作品。ベルリンの壁崩壊以降、今となっては遠い昔の話のような気もする。
作品そのものは、日本人の主人公が、義兄の死の謎を追ううちに逃走幇助業者の世界に巻き込まれてゆくというもの。謎解き的なミステリーではなく、スパイ小説といってよいだろう。乱歩賞受賞作の中では、少し毛色が違う作品と言えるだろうか。
それなりに楽しんで読んだが、読後なんとなく陰鬱な気分になってしまうのは、結末のせいというよりも時代背景のせいと言えるだろうか。非常に興味深い作品である。

(2000.03.30)


逃亡ファイアボール・ブルース 桐野夏生 1995.01.30 第1刷 集英社 ISBN 4-08-775184-8

女子プロレスラーが主人公のハードボイルドというところか。設定がユニークといえるだろうか。桐野夏生の作品は、所謂3F小説といわれるが、読者は男性の方が多いんじゃないかという気がする。そうすると2Fになってしまうが。

「OUT」「柔らかな頬」と、特有の世界を繰り広げてゆくが、こういう軽い作品もよいのじゃないかな。村野ミロシリーズも、まだ連載中の「ダーク」に到っては著尾と雰囲気が変わってきた気もするし。
いずれにせよ、目の離せない作家ではある。出版時期と、読んだ順番が一致しないので、ちょっと感想がデタラメになっている着もしないではない。

(2000.03.31)